流鏑馬には、奉行(武田流司家)、射手の他、的目付(まとめつけ)、幣方(へいかた)、矢取、旗持ち(旗手)、扇方、陣太鼓の所役があり、それぞれその装束が異なります。
■奉 行
流鏑馬儀式の総指揮者である奉行は、武田菱の定紋のある鬼面を頂いた綾桧笠(あやひがさ)を被り、赤地に金糸で武田菱を刺繍した射籠手(いごて)を付け、定紋を散らした鎧直垂(よろいひたたれ)を着ます。腰には符の入る鹿の夏毛の行縢(むかばき)に太刀を帯び、征矢(そや)を二十四本差した箙(えびら)を負い、本重藤(もとしげとう)の弓を持ち、射沓(いぐつ)を履きます。
■射 手(いて)
赤地、青地にそれぞれの家紋を金糸で表わした射籠手に鎧直垂を着、右腰には鏑矢(神頭:じんどう を付けた矢、神頭とは目無し鏑の事)を三本差し、一本は弓と共に持ちます。前差(まえざし)及び尻鞘(しりざや)を懸ける太刀を帯び、行縢、射沓を履き、奉行と同様に綾桧笠を被ります。
■所 役(しょやく)
的目付を始めとする所役は、直垂(大袖)に後三年型の烏帽子(えぼし)を被り、太刀を帯び鼻高沓を履きます。
■出 陣
「寄せの太鼓」を合図に射手、所役一同が奉行の下、社殿前庭に勢揃いします。
■鏑矢奉献(かぶらやほうけん)・願文奏上(がんもんそうじょう)の儀
奉行、射手、所役の順で隊列を組み、拝殿へ向かいます。拝殿へは奉行と射手が昇殿し所役は向拝のため一列横隊で拝殿下に跪座します。昇殿した奉行は儀式用(天長地久之式)の鏑矢を神前に奉献し、併せ『天下泰平、五穀豊穣、万民息災』の願文を奏上し、玉串を奉奠(ほうてん)した後、鏑矢を拝受し一同退出します。
■天長地久之式(てんちょうちきゅうのしき)
一同乗馬し再び社前に集合の上、各々の配置に就きます。奉行は射手、所役の打ち揃う中央に馬を進め、「五行之乗法」を行います。初め左に三回、右に二回、馬を乗り回し、中央で馬を止め神前に目礼した後、鏑矢を弓に番え、天と地に対し満月に弓を引き絞り、『天下泰平、五穀豊穣、万民息災』を祈念します。
■行 軍(こうぐん)
所役は旗持ちを先頭に隊列を組み、騎馬は奉行を先頭に隊列の後に付き馬場へ向かいます。行軍中は「序之太鼓」を打ちながら馬場に至ります。
■素 駆(すばせ)
馬場入り後、奉行は記録所に上がり所役一同は各部署に就きます。射手は馬場上の馬溜りに集合します。奉行は各自の配置と馬場内の安全を確認します。馬場上(ばばかみ)、馬場下(ばばしも)の扇方(おうぎがた)は馬場内の安全を確認し、準備完了の扇の合図を行います。その後、奉行は「破之太鼓(はのたいこ)」を打ち、射手は順に馬場に全速で馬を打ち込みます。
■奉 射(ほうしゃ)
馬場の延長は百二十間(218m)前後で、その間に三つの「式之的(しきのまと)」が立てられています。射手は一之組と二之組など幾組かに分かれ奉射を行います。射手は馬を全速力で走らせながら「一之的」から順に、弓に矢を番えては放ち馬場を駆け抜けます。これを決められた回数繰り返します。
■競 射(きょうしゃ、くらべゆみ)
的の位置などは「式之的」と同様ですが、的自体は「三寸の小的」(土器二枚を合わせ、中に五色の切り紙を入れ張り合わせた的)に替わります。この的は矢が的中すると土器が砕け中の切麻(きりぬさ)が花吹雪のように風に舞い散ります。
この競射は奉射を行った射手の成績の上位の者のみが出場の機会が与えられます。この競射により成績最優秀者が決められます。
こうして競射が終わると、奉行は記録所で「止之太鼓(とめのたいこ)」を打ち鳴らし、射手、所役は奉行の下に集合します。
■凱陣之式(がいじんのしき)
この儀式は、流鏑馬そのものが世の邪悪退治をも意味しているため、退治した邪悪の「首実験」の意味も込められています。競射の最多的中者は式之的を持ち奉行の前に進み出で跪座します。奉行は扇を開き骨の間より的を検分します。次に扇を畳み太刀の鯉口を切った時、太鼓方は陣太鼓を三打します。奉行は鬨の声を「えい、えい、えい」と上げ、射手、所役一同はすかさず「おー」と唱和、これを三回繰り返し勝鬨を上げます。
■直会式(なおらいしき)
凱陣之式の後、奉行、射手、所役の順で神門で御神酒を頂戴します。
直会後、陣払いし奉行、射手は乗馬、隊列を組んだ所役に続き行軍に移り、一切の儀式を終えます。